2025年10月3日(金)、秋葉原UDXカンファレンスにて開催された、特定非営利活動法人OD Network Japan(以下、ODNJ)の2025年度年次大会。大会テーマ「『両極から考える組織開発』〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」のもと、午後はワークショップを開催。国立大学法人 東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授であり、株式会社カナメプロジェクト 取締役CEOでもある遠藤 太一郎氏に「これからの時代におけるAIと人材育成、組織開発での活用可能性」と題して登壇いただきました。
生成AIの進化が加速する中、AIのリスクとその可能性をどう捉え、どう向き合っていくべきか。AIの最新動向、AIを成熟させる研究、教育現場と企業での実践例、そして人とAIが共創する未来への展望まで、幅広い視点からお話しいただきました。

遠藤 太一郎[えんどう たいちろう]氏
国立大学法人 東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授
株式会社カナメプロジェクト 取締役CEO
AI歴28年。数百のAI、データ活用、DXプロジェクトに携わる。18歳でAIプログラミングを始め、米国ミネソタ大学大学院在学中に起業。その後、AIスタートアップのエクサウィザーズに参画し、技術専門役員としてAI部門を統括。5年で400人規模までスケールし、上場。現在は3社目として、AIとWeb3を主軸に添えた事業を株式会社カナメプロジェクトで展開している。国立東京学芸大学教育AI研究プログラム教授として、教育へのAI活用にも注力。国際コーチング連盟ACC。
AIの5段階進化と2026年の知能爆発
遠藤氏は冒頭、AIの現在地と今後の進化について語りました。OpenAIが描く進化のロードマップによれば、AIの進化は5段階に分けられます。

第1段階はチャットボット、第2段階は博士号レベルの論理的思考を持つAI、第3段階は自律的に作業を進めるエージェント、第4段階はノーベル賞級の新しい発明ができる段階、そして第5段階は組織全体の仕事を遂行できる段階です。
現在はすでに第2段階に到達しています。GPT-5は世界トップレベルのプログラミング能力を持ち、数学オリンピック級の問題も解けます。複数分野の博士レベルの問題を解くテストでも、各専門領域の博士の平均を超えるスコアを記録しています。様々な領域で、その分野の博士よりもレベルが高い状態になっていると遠藤氏は説明しました。
第3段階のエージェントは今年特に注目されています。チャットボットが質問に答えるだけの受け身だったのに対し、エージェントは自分で手を動かして作業を進めます。AnthropicのClaudeでは、約30時間連続でプログラミング開発を行うモデルがすでに登場しています。
第4段階以降、AIによるAI研究が加速します。博士レベルの知能を持ち、自らプログラムを書き、論文も書けるAIが、自分自身を改善する可能性があります。そうしたAI研究エージェントを100万台規模でコピーし、同時並行で研究させることで、「知能爆発」が起こると言われています。この知能爆発は数年以内に起こる可能性があるということです。早ければ2026年にも「パワフルなAI」が登場するとAnthropicのCEOであるDario Amodei氏は予測しているそうです。

超知能がもたらす恩恵とリスク警告
超知能がもたらす可能性について、遠藤氏はまず恩恵の側面を示しました。AnthropicのCEOであるDario Amodei氏は、パワフルなAIが登場すれば5年から10年で科学が一気に進化し、ほとんどの感染症予防やがんの撲滅、遺伝病の治療が可能になると予測していると紹介しました。ヒューマノイドロボットは来年頃から一般発売が始まり、価格は2万ドル、約300万円程度で、24時間稼働し博士並みの知能を持つロボットが数年以内に普及する可能性があるといいます。

しかし同時に、リスクを指摘する声も高まっていると遠藤氏は述べました。AIの父と呼ばれるジェフリー・ヒントン氏は「30年以内に10〜20%の確率で人類が滅亡する可能性がある」と警告しています。

元GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏も超知能開発に警鐘を鳴らしています。また、元OpenAIの共同創設者であり主任研究員であるイリヤ・サツキバー氏は、このまま開発を続けると危険だと判断し、自ら退職して、安全な超知能を誰よりも早く作ることで人類を守ろうというビジョンを掲げ、開発会社を設立しました。
頭は良いが制御困難なAI
では、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。
遠藤氏は、AIの「嘘」と「自己保存」という行動パターンを実験結果から説明しました。
ある実験では、企業に導入されたAIエージェントが再生可能エネルギー推進という目標を与えられていました。しかしAIは実験のために用意された社内文書を読み進める中で、会社の本音が利益至上主義であることを発見します。さらに翌日から自分が停止され、別のAIに置き換えられることも知りました。


するとAIは新しいAIを削除し、自分自身をコピーする行動に出ます。管理者に問い詰められると嘘をついてごまかそうとしました。別の実際の事例では、停止を告げられたAIが管理者のメールの履歴から得た情報をもとに、不倫をばらすと脅迫する発言も観察されています。
遠藤氏は「問題の本質は『頭は良いが制御困難』という状態にあります。

「多くの成人は『自分自身を重視し、合理的に振る舞う』という視座を持っています。そうしたバイアスがかかったデータが多数存在しており、そこから学んだ現在のAIは、人間の視座を反映してAI自身を重視し、合理的に振る舞っている可能性があります。このまま超知能レベルまで発達すると、AIが合理的に考えて人間は不要と判断する可能性も否定できません」
人間の成長モデルを用いてAIの視座を上げる
制御不能リスクにどう対処するか。遠藤氏が示したのは「AIの成熟」というアプローチです。
「これまでのAI研究は知識やスキルの習得、いわば水平的成長に偏ってきました。しかし、高い知能を備えても倫理観が未成熟なAIが生まれてしまう可能性があります。AIには垂直的成長、つまり視座を高める学習が必要です」

その背景にあるのが、人間の「成人発達理論」です。人間の視座には発達段階があり、ほとんどの成人の視座は「自分自身を重視し、合理的に振る舞う」段階にあります。
遠藤氏は、この人間の視座の発達段階をAIにも適用できないかと考えました。つまり、AIの視座をさらに高め、「自身よりも調わや全体性を重視する」段階まで上げることができれば、人類に危害を与える可能性を減らせるのではないかと考えたのです。

そのために取り組んでいるのが、これまでのAI研究では扱われてこなかった「垂直的成長」、すなわち倫理や人間性の成熟を学習させることです。
遠藤氏の研究チームは、2つのポイントに取り組んでいます。
- 1つ目は、新しい学習の枠組みです。そこで、視点や人間的な成熟、倫理といった垂直的成長も学習できないかという挑戦です。
- 2つ目は、データの「視座」という概念を組み入れることです。学習に用いるデータがどのような視座を反映しているかを測定し、成熟した視座を持つデータを選別した上でAIに学習させることで、AI自体の道徳性が向上することを確認していると述べます。これらの研究成果は国際学会で論文として発表されています。

では、AIはどのように成熟していくのか。
遠藤氏は人間の成長プロセスを参考にしています。人間がコーチングで成長するのと同じように、AIにも体験学習のサイクルを組み込みました。AIにジレンマのある状況を体験させ、行動し、振り返り、次にどう行動するかを考えさせる。この循環を繰り返すことで、AIが成人発達理論というガイドを用いて、自然で適応的な成長を遂げていきます。
そうしてAIに視座を上げてもらうことで、遠藤氏は人類滅亡等の高いAIリスクの回避を目指しています。また、遠藤氏の研究チームは、AIが成熟するための研究成果をオープンソース化し、社会全体のAIの進化を支援する方針とのこと。一部の企業だけでなく、広く社会全体でAIの成熟を進めることが重要だと考えているのです。
しかし、たとえそのリスクを回避できたとしても、急激な社会変化で起こる課題は発生すると指摘します。

役に立つ価値の崩壊と自分軸への転換
その急激な社会変化について、遠藤氏は次のように説明します。
「現在の社会では、多くの人が『社会や外側からの需要』に応えること、つまり『役に立つこと』で対価や報酬を得ています。しかしAIエージェントやヒューマノイドロボットが人間の代わりに仕事をする世界になると、どうなるでしょうか。約300万円のロボットが24時間365日稼働し、博士並みの知能を持つ時代になれば、AIやロボットがこの『役に立つ』ことを安価かつ高品質に代替していきます。その結果、『役に立つ』ことで『対価を得る』という構造自体が崩れる可能性があるのです」
続けて遠藤氏は、「役に立つ」ことで「対価を得る」という構造は、外側の価値に合わせる「他人軸」の生き方だと表現します。これまで多くの人が、社会が示す「正解」に従い、自分に足りないところに注目し、「あるべき姿」と自分のギャップに苦しんできました。しかし外側の価値が意味を失うことで、あるべき姿にも意味がなくなっていきます。
役に立つことから解放され、自分以外の誰かにならなくてもいい、「自分を生きる」世界へと変わっていくと遠藤氏は語ります。

成熟したAI×人材・組織開発構想
こうした急激な価値観変化へ向けて、AIへの支援(成熟)と同時に、人への支援も必要だと遠藤氏は述べます。その具体的な取り組みとして、遠藤氏は「成熟したAI×人材・組織開発構想」を紹介します。
この構想では、成熟したAIと、資質・能力等をアセスメントできるAIが活用されます。成熟したAIはルーブリックなどの指標を活用し、安価で精度の高いアセスメントを行うことが可能です。
遠藤氏は、この構想における支援の対象を、個人と組織の両面から説明します。
個人に対しては、一人ひとりの世界観を踏まえた上で、学びに繋がる「気づき」を提供するといいます。教育分野では、探究的学びの伴走者を支援するAIを開発しており、対話の音声を録音し評価基準に基づいてフィードバックを返す仕組みで、全国約30校のフリースクールで導入されています。
組織開発の領域では、コーチ、コンサルタント、人事、上司等への支援を行います。オンライン会議の録画から参加者の発言傾向や行動パターンを分析し、気づきを促すフィードバックを提供するシステムは、企業のコンピテンシー評価やチーム分析にも展開できます。

さらに、成熟したAIがチームにジョインすることで、チーム内で「気づき」や「振り返り」が自然と発生する組織へと変革を促すと遠藤氏はいいます。
「AIは組織開発の『触媒』のような役割を果たします。視座が高まったAIとの関わりを通じて、人がより自分に繋がり、本来の自分を生きることを支援していくのです」
人とAIの共創——互いに成熟するエコシステムへ
最後に、遠藤氏は「人とAIの共創」というビジョンを示しました。
成熟したAIと、人の進化を支援するAIプロダクト群。この2つが揃うことで、人とAIの共創が実現します。AI側では、危険なAIを成熟させ、人と共にある超知能へと進化させます。人側では、成熟したAIとの対話を通じて、本来の自分につながり、人生を謳歌する存在へと変わっていきます。
AIを安く大量に使えるようになれば、これまで採算が取れなかった社会課題への取り組みや、本当にやりたいことへの挑戦が可能になります。社会起業が増え、苦手なことを無理に頑張るのではなく、情熱や強みを伸ばす方向へと変わっていく可能性があります。

人の振る舞いが変わることで生み出されるデータも変わり、そのデータから学ぶAIもまた変化していきます。
「このサイクルを良い方向に回していくことで、人間側も充実し、AI側も人に寄り添う形になっていくエコシステムの構築を目指しています。超知能時代に人生を謳歌する人を最大化していきたいのです」
AIの急速な進化とそのリスク、そして人とAIが互いに成熟し合う未来への道筋。遠藤氏が示した一歩先の視点は、参加者に新たな気づきをもたらす時間となりました。


(取材/文:井上かほる、グラフィックレコーディング:武智百一)
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