組織開発の実践と学習のコミュニティ

【会員自主企画勉強会 ODNJチーム共創活動】 ODNJゲシュタルト療法研究部会 第15回 テーマ:マルティン・ブーバー『我と汝』から学ぶ「関係性と対話」の本質 〜組織開発における“関係”を問い直す〜(20251210開催)

組織開発の現場で「関係性の質」という言葉を聞かない日はありません。

しかし――そもそも「関係」とは何でしょうか?

多くの実践者は「関係性を良くする」「対話を促進する」と言葉にしながらも、

その根底にある“人と人との向き合い方”を深く問い直す機会は多くありません。

第15回ゲシュタルト療法研究部会では、哲学者マルティン・ブーバーの代表作『我と汝(I and Thou)』をテーマに、「対話」や「関係性」の本質を探求します。

ブーバーはこの世界を「我‐汝」と「我‐それ」という二つの関係で成り立つと説きました。

人を“対象(それ)”として扱うのではなく、“汝”として全存在で出会うとき、はじめて本当の「対話」が生まれる――この思想は、ゲシュタルト療法の基盤でもあります。

セミナー概要

現代の組織開発において、対話型アプローチは欠かせません。しかし、「会話」と「対話」はまったく異なるものです。表面的な情報交換ではなく、“自分の内側に起きる変化”を伴う関わり――それが「対話的関係(我と汝)」の核心です。

今回のセミナーでは、宗教哲学から心理療法まで幅広い領域で影響を与えたブーバーの思想を手がかりに、組織開発・人材開発における「関係性」や「接触境界」を再考します。

このセミナーで得られる3つの学び

  • 1.「対話」と「会話」の違いを体感的に理解する
    日常の関わりにおける“我‐それ”の関係と、“我‐汝”の関係を解説します。
    相手と向き合うとき、自分の内側で何が起きているのか。 その気づきが、対話の質を変える出発点になります。
  • 2.「関係性の質」を生む構造を理論的に理解する
    なぜゲシュタルト療法では「クライアントを分析しない」のか。
    ブーバーの思想を通して、評価や分析ではなく“存在として出会う”ことの意味を学びます。 この理解は、ファシリテーションやコーチング、1on1などの現場にも直結します。
  • 3.「組織開発における「我と汝」の応用を探る
    OD実践者・コンサルタント・リーダーとして、 クライアントやチームとどのように“我と汝”の関係を築けるのかを考察します。
    分析中心の組織開発から、“存在を通じた関係性開発”へ―― その転換のヒントを得られます。

こんな方におすすめです

  • 「関係性の質」を高めたいが、どう扱えばよいか模索しているOD実践者
  • 組織の“対話文化”をつくりたい経営者・人事担当者
  • クライアントとの距離感や関係構築に悩んでいるコンサルタント・ファシリテーター
  • 「分析すること」と「つながること」のあいだで揺れている方

主なトピック

  • 「対話」と「会話」の違い
  • 組織開発における「我と汝」関係の意味
  • ブーバーの思想がゲシュタルト療法に与えた影響
  • 「関係性対話」の実践とその効果
  • 相手を“分析しない”関わり方の意義
  • 自分への気づきが対話を生むメカニズム

本セミナーは、哲学的な理論をただ学ぶ場ではありません。

“自分と他者のあいだ”で何が起きているのかを体験的に探求し、「関係とは何か」「対話とは何か」を再定義する機会です。

組織開発・人材開発に携わるすべての方にとって、日常の関わり方を根底から問い直す、深い学びの時間となるでしょう。

皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

※本セミナーは、前回までの内容を踏まえつつ構成されていますが、初めての方でも十分に理解し、実践できる内容となっています。実践できる内容となっておりますので、奮ってご参加ください。

チケットについて

チケットはリアルでの会場参加、オンラインでのカメラオン参加、オンライン聞くのみor録画視聴の3種類がございます。ご希望に合わせてお選びください。

ディスカッション、質問などは、リアル及びオンラインカメラオン参加の方までとなります。(質問がカメラオンの方までを対象としているのは、質問内容についてこちらからお聞きすることがあるからです。)

申し込まれた全ての方に、後日録画したものを編集してお送りします。ただし、デモワークについては本人の希望によりカットされる場合がございますので、ご了承ください。

開催日

2025年12月10日(水)19:30-21:30

開催場所※移転したため以前とは住所が違います

東京代々木

企画経営アカデミーセミナールーム

東京都渋谷区千駄ヶ谷4−3−1 シャロン・ド・シャポービル603

北参道駅から徒歩1分、代々木駅から徒歩6分の場所です。

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「ODNJゲシュタルト療法研究会について」

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研究会の目的

OD実践者としてUse of Selfを実践できるようになり、ファシリテーション能力を向上させること

ファシリテーター

大槻貴志

  • 企画経営アカデミー株式会社 代表取締役
  • ゲシュタルト療法士
  • ゲシュタルト療法学会元評議員

早稲田大学卒業後、キヤノンに入社。キヤノンでは経営人材育成コースに配属され、リーダーシップ及び組織開発の基礎をたたき込まれる。

キヤノン退社後、新規事業の中毒者として、数多くの新規事業の立上げと失敗を経験し、事業成功には営利性ではなく、人間性中心のアプローチが必要だということに気づく。より深く、人間心理のメカニズムを学ぶために、交流分析、再決断療法、ゲシュタルト療法と数多くの心理療法のトレーニングを受ける。

得られた知見を元に、新規事業における書籍「社内新規事業コンパス――イノベーションを起こすための[リレーショナルスタートアップ]の技法」を出版。

組織開発コンサルタントとしては、社員の無用なストレスを無くすことをミッションとして、組織のウェルビーイング向上の働きかけを大企業から中小企業まで行っている。

現在はゲシュタルト療法の探求をさらに進める一方で、ビジネスとどう融合させるか、日夜研究中。

スーパーバイザー

ゲシュタルトネットワークジャパン代表理事

百武 正嗣

対象となる方

  • 社内における組織の問題を解決したいと思っている方、している方
  • 組織開発コンサルタントとしての仕事をされている方
  • 組織開発のトレーニングを受けたことがある方
  • ゲシュタルト療法を組織開発にどう応用するのか、ディスカッションする時間などありますので、組織開発に関する最低限の知識と経験は必要となります。

期待される学び

  • Use of Selfについて
  • ファシリテーターとしてのあり方
  • 行き詰まり(インパス)の解決
  • 人や組織が「変容する」プロセス

参加条件

  • ODNJ会員
  • ODNJ入会を検討している外部の方(事前にteams@odnj.orgへご連絡ください)

参加費用(各回)

会員)1,000円

一般)1,200円(ODNJに入会を検討されている方)

開催方式

ハイブリッド(リアル&オンライン)

ワークなどはリアル参加者のみとなりますので、できる限りリアルでの参加をおすすめします。

変革の時代を生き抜く組織力 ~AIと共創する新たなリーダーシップと組織開発~:ODNJ年次大会2025 基調講演

2025年10月3日(金)、秋葉原UDXカンファレンスにて開催された、特定非営利活動法人OD Network Japan(以下、ODNJ)の2025年度年次大会。大会テーマ「『両極から考える組織開発』〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」のもと、株式会社ベネッセコーポレーションの執行役員 学校カンパニー 副カンパニー長の込山智之氏と組織開発・HR領域リーダーの井戸敦子氏に、「変革の時代を生き抜く組織力~AIと共創する新たなリーダーシップと組織開発~」と題した基調講演をしていただきました。


AIが業務を代替する時代において、人間にしかできない価値とは何か。リーダーに求められる役割はどう変わるのか。込山氏からは、「変わらざるリーダーシップの本質」と題し、経営視点からAIによる環境変化の中でも普遍的に求められるリーダーシップの本質と、人間らしさを活かした組織運営の実践についてお話しいただきました。


込山 智之[こみやま・ともゆき]氏

株式会社ベネッセコーポレーション
執行役員 学校カンパニー 副カンパニー長

2023年よりB2B事業のカンパニー経営を担当し、全体戦略の立案・実行、DXによる事業変革を行う。同時に組織開発もリードし、社員のウェルビーイングを志向した“ごきげんな組織”の実現に向けて邁進している。

デジタル化がもたらしたリーダーの役割転換

まず込山氏は、2010年代からの15年間で起きた大きな変化として、デジタル化、アジャイル化、フレキシブルワークの3点を挙げました。これらの変化により、リーダーの情報優位性の低下、部下との接点の減少、メンバーの行動・感情把握の困難さといった課題が生じていると言います。

こうした変化を受けて、込山氏は以下の3つのシフトが起きていると説明します。

第一に「権力のシフト」。上司の優位性が保たれなくなり、リーダーは支配管理から支援導きへと転換すべき存在になりました。「メンバーが奉仕することでチームが成功するモデルから、メンバーの成功を促すことでチームが成功するというマインドシフトが必要です」(込山氏:以下同)と言います。

第二に「関係性のシフト」。指示監督から伴走共創へ、業務の監督からパフォーマンスを高めるコーチングが求められるようになりました。

第三に「組織構造のシフト」。階層や役割の分担から、機能やスキル、強みの発揮を促す形へと変化しました。「管理するマネージャーから、ピープルマネジメントができるピープルリーダーへの転換が必要です」と述べました。

生成的リーダーシップという再定義

では、今後さらにAIの進化により変化する時代において、「変わらざるリーダーシップの本質」とは何か。込山氏はまず、AIの登場による労働市場への影響を示しました。

国際労働機関(ILO)が2024年5月に発表した最新データによれば、生成AIの登場によって世界の雇用の24%が影響を受けると言います。管理職・リーダー業務に当てはめると、タスク管理、進捗管理、スケジュール調整、定型報告などはすでに代替されてきています。

一方で、AIでは代替されない管理職・リーダー業務として、創造性と価値創出の牽引、チームビルディング、組織文化の形成、メンタリングと人材育成、倫理的判断と社会的責任の遂行を挙げました。
こうした分析を踏まえ、込山氏は「生成的リーダーシップ」の重要性を強調しました。これは「未来志向の創造、組織行動の意味、社員同士の関係性を生み出すリーダーシップ」であり、具体的には3つの力が求められると言います。

第一に「問いを立てる力」。厳しい環境の中で自ら問いを立て、未来志向で前向きな創造の起点を作ります。「今はできなくても、どう考えたらできるようになるのか。その投げかけによってメンバーや組織全体の思考と行動を活性化させることが重要です」と説明しました。

第二に「意味を紡ぐ力」。なぜそれをやるのか、この場は何なのか、それにどんな意味があるのか。変化の中で意義や理由を定め、組織行動に意味を与えることが求められます。「内容だけでなく、機会の数や質も含めて、リーダーがメンバーに対して常に語りかけることが必要です」と述べました。

第三に「関係性を育てる力」。誰とどのような関係を築いているか。「人の繋がりを強めて組織全体の心理的安全性を高めていくことが重要です」と伝えました。
そのうえで込山氏は、人間らしさを活かした組織運営について説明しました。AIに比べて人間の強みがある部分として、倫理、感情、価値観を踏まえた判断を挙げています。

「言語生成は可能だが感情は模倣であるAIに対して、真に共感し信頼関係を築く力が人間にはあります。与えられた合理的なロジックで決定していくAIに対して、なぜやるのかを自ら問い、パーパスや目的意識を描いて進めていく。この人間らしさこそが、AI時代におけるリーダーシップの源泉です」

人間らしさを活かした組織運営の実践

ここで込山氏は、自身が実践してきた組織運営の具体例を紹介しました。これらの取り組みにより、組織のエンゲージメント指標(モチベーションクラウドを例に)で「事業のコンディションの良し悪しにかかわらず、スコア70(偏差値に相当)を維持し続けてきた」と言います。

では、どのような取り組みを行ってきたのか。まず土台となるのが、「MEE(Max Engagement and Energy)」と名付けた自身でプログラム化した管理職向けのワークショップです。カンパニー内の約50名の課長を対象に毎年実施し、リーダーの自覚と内省、大義と行動の統合、率先垂範、ヒューマンセントリックな姿勢を重視しています。リーダーが身に着けるべき「マインド」「スタンス」「スキル」の3階層で構成され「組織と人にいかに向き合うか」の実践に取り組んでいます。

込山氏は「組織はリーダーを映す鏡」という考え方を大前提に置いています。
「リーダーが元気でなければ組織は元気にならない。リーダーがコンプライアンスに甘ければ、組織全体にコンプライアンス違反が横行する」と、リーダー自身の在り方が組織文化に直結することを強調しました。

こうしたリーダー育成に加えて、組織全体での様々な取り組みも行っています。関係性の質を高めるため、「すごい、さすが、ありがとう」という感謝の言葉を組織に溢れさせること、月に一度のプチ交流、近況報告バトンなどを導入。また、科学的な行動特性プロファイルを活用したチーム組成や、「トランザクティブメモリーの最大化」を目指した年一回のプレゼンテーションコンテスト、さらには社員のキャリア自立を目指し、自らが主催するセルフ・リフレクションワークショップも開催してきました。

そしてこれらの取り組みから、新たな動きが生まれました。立場や職責を問わず、「やりたい」と思った社員が自ら集まり、組織をより良くする自律分散的な活動が始まっています。

「立場や職責を問わず、やりたい人が集まって自律的に動き出しています。リーダーではない個々のメンバーが生成的リーダーシップを発揮しているのです。人的資本が活かされる場を自ら作り出している状態は、経営サイドから見ても本当にあるべき未来の姿だと思います」

VUCA時代の意思決定──「中庸」という動的最適解

講演の終盤、込山氏はVUCA時代における意思決定の考え方を示しました。変化に応じて方針を変える柔軟さが求められ、失敗もまた学習の契機と捉える姿勢が重要です。ここで込山氏が強調したのは「中庸」という考え方でした。

「中庸とは単なる50:50の静的均衡ではなく、状況に応じた動的な最適解を模索することが中庸の本質です。過不足なく偏らず調和を保つことが重要です」

込山氏は、現在も模索中としながらも、「普通だったら両立しないような、中期と短期、安定と成長といったものも、説得や共感を地道に行うことで両立させられる可能性がある」と述べました。

講演の最後に、込山氏は生成的リーダーシップを実践する上で「変わらざるリーダーシップの本質」として「LEAD THE SELF」を挙げ、会場に向けてメッセージを送りました。

自分で自分自身を鼓舞する。人を変えるのも社会を変えるのも、起点は自分自身=個のはずだと込山氏は述べます。

「社会を動かした、かのガンジーもマーティン・ルーサー・キングも、まず自分自身が思って動き始めました。保証のないことへの躊躇は誰にもありますが、自己効力感を活かしながら、自分が大切にする価値観を見つめ続けながら、セルフリーダーシップで進めていくことが求められていると思います」

続いて、組織開発の現場視点から井戸敦子氏が登壇しました。

井戸氏はベネッセコーポレーションで成熟事業の組織開発を担当しながら、同時に新規事業の立ち上げにも関わる立場にあります。今回は「在るものを活かし、無いものを創る――事業収束を機会に変えた組織変革の実践」と題し、事業収束という危機を乗り越え、約2,000名の組織と共に新たな可能性を創造した組織変革の実践について語りました。

井戸敦子の写真

井戸 敦子[いど・あつこ]氏

株式会社ベネッセコーポレーション 組織開発・HR領域リーダー

事業サービス収束という危機と認知の転換

まず井戸氏は、組織変革の背景として、同社が提供する教育サービスの一部が、事業環境の変化により段階的に収束することが決定した点について説明しました。この決定により影響を受けるのは、業務委託契約で長年(15年~35年)にわたり貢献してきた、教育と同社に高いエンゲージメントを持つ約2,000名弱の「教育アクター」と呼ばれる人々でした。

井戸氏自身も当初は深い葛藤を抱えたと言います。しかし、責任者やチームとの対話を重ねる中で、「これは人類が遅かれ早かれAIなどによって直面する課題だ。単に組織を収束させるのではなく、最後までこの組織の人々の可能性と機会を探求したい」という認識に至ったと語りました。

そして、自身の師から受け継いだ「だったらどうする?」という問いを投げかけ続け、変化を受け入れ、組織の強みとアクターの可能性を再定義するというプロジェクトの方向性を定めました。アプローチとして、エフェクチュエーションのフレームワークを用い、「在るものを活かして無いものを創る」¹⁾ という方針を掲げました。

「在るもの」を活かす探索のプロセス

このアプローチは、①自らの価値の確認、②小さな行動、③越境による相互理解、④新たな活躍先の創造、という4つのステップに「自らの可能性」という視点を加えたものだと井戸氏は説明します。

最初に、アクターの多面的な能力の棚卸しに取り組みました。「多面体で人を見る」ことを重視し、既存業務で見える側面だけでなく、過去の経験、成長意欲、思考特性などを定性・定量の両面から把握しました。その結果、まだ発揮されていない組織全体の潜在的な可能性が明らかになったと言います。

次に、社内の事業部門を横断する「越境活動」を展開しました。様々な部門をボトムアップで訪ね歩き、対話を通じて協業の可能性を模索したと言います。多くの試みは事業化に至らなかったものの、最終的に2つの大きな協業先を発見しました。その一つが、後に井戸氏自身も参画する新規事業、通信制サポート校でした。ここでは、アクターの「教育への情熱」と「生徒に寄り添う力」を活かし、生徒へのメンタリングサービスとして実装することで、一人ひとりの能力を最大限に発揮できる形へと昇華させました。

「挑戦の輪」を数%から80%へ広げたアプローチ

新たな活躍の場を用意するだけでは、人は動かない。そこで井戸氏らは、チェンジカーブ理論に基づき、段階的な組織コミュニケーションを設計しました。

まず、早期のコミュニケーションを重視し、来るべき未来の見通しを組織に伝え続けることで、変化へのソフトランディングを図りました。事業収束の告知後は、透明性と誠実性を徹底した説明を心がけたと言います。「チームや事業責任者も逃げることなく、全身全霊でオープンかつ誠実であることを示しました」と井戸氏は振り返ります。アンケート等を活用し、約2,000名という大規模な組織の「心象風景」をリアルタイムで把握していきました。

次に、新たな挑戦への動機付けに取り組みました。最大の障壁は、最初の数%の挑戦者をいかに生み出すかであったと言います。井戸氏は「多面体で人を見る」という視点に基づき、現有能力だけでなく、過去の経験や副業、挑戦意欲といったデータを総合的に判断し、新規事業に必要なスキルを持つ人材に声をかけ、小規模な実験チームを編成しました。

この実験チームでは、自己効力感を高めるために「言葉による承認と可能性の提示」と「代理体験」を活用したと説明します。「これまでの経験を棚卸しすることで見つかる未来につながる価値や能力を、言葉で承認し伝えました。そして、仲間の成功事例を示すことで、『自分にもできるかもしれない』と感じてもらうのです」。この最初の数%の勇気が引き金となり、挑戦へのムーブメントは組織全体へと広がっていきました。

最終的に、対象者の80%が新業務への挑戦に手を挙げました。この過程で「卒業」を選択したアクターもいましたが、挑戦と卒業、双方の選択肢が等しい価値を持つものとして尊重され、卒業者に対しても、これまでの貢献への感謝を伝える場が設けられました。

AI時代の組織開発への示唆

講演の最後に、井戸氏は今回の実践から得た学びとして以下の3点を挙げました。

第一に、「危機の持つ本質的な価値」です。「平時ではない状況だからこそ想像力が解放され、2,000人の危機が、2,000人分の可能性の扉に変わったのです」と井戸氏は語りました。

第二に、「エフェクチュエーション型リーダーシップの重要性」です。変化の速い時代においては、未来を予測するのではなく、手持ちの資源から何ができるかを考える思考が求められます。「リーダーは答えを持つのではなく、組織として『どんな問いに答えたいのか』を共有することが重要です」と強調しました。

第三に、「集合的マインドセットの転換」の重要性です。感情は伝播する性質を持つため、「やってみたい」というポジティブな感情が徐々に広がっていくような仕掛けを意識的にデザインすることの重要性を述べました。
そして井戸氏は、「もし、組織の終わりに見えるものが、形を変えた始まりだとしたら。AIが仕事を奪うのではなく、チームの本当の価値を教えてくれる鏡だとしたら。皆様と共に考えていきたい」と参加者に問いかけ、講演を締めくくりました。

注 1)「在るものを活かしてないものを創る」は、株式会社ベネッセホールディングス福武總一郎名誉顧問の言葉。(参考:「瀬戸内海と私―― なぜ、私は直島に現代アートを持ち込んだのか」ベネッセアートサイト直島)

謝辞 本稿で報告した組織変革の実践にあたり、共に全力を尽くした組織チームのメンバー(特にコミュニケーション推進を担当した小田氏)、活動を見守り支援いただいた各カンパニーの上長の方々、そして何よりも、変化に直面しながら最後まで業務に真摯に向き合い、最高の価値を提供し続けてくださった教育アクターの皆様に、心からの敬意と感謝の意を表します。

(取材/文:井上かほる、グラフィックレコーディング:武智百一)

2025 ODNJ年次大会 実施レポート記事

ベネッセコーポレーション様の基調講演の詳細レポート »
遠藤氏のワークショップの詳細レポート »
黒川氏のワークショップの詳細レポート »

ミネルバ式最先端リーダーシップ──”適応する力”を体感する:ワークショップ②

2025年10月3日(金)、秋葉原UDXカンファレンスにて開催された、特定非営利活動法人OD Network Japan(以下、ODNJ)の2025年度年次大会。大会テーマ「『両極から考える組織開発』〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」のもと、最終セッションとして、黒川公晴氏によるワークショップ「ミネルバ式最先端リーダーシップ──”適応する力”を体感する」が開催されました。

正解のない時代、複雑性が増す現代において、リーダーには「適応する力」が求められています。複雑な状況をどう捉え、リーダー自身がどう変容していくのか。理論とワークを通じて、適応型リーダーシップとシステム思考を体感する2時間となりました。

黒川公晴の写真

黒川 公晴[くろかわ きみはる]氏

株式会社Learner’s Learner代表/ミネルバ認定講師

1983年大阪生まれ。2006年に東京外国語大学英語科を卒業後、外務省入省。米国ペンシルバニア大学で組織開発修士を取得し、外交官としてワシントンDC、イスラエル/パレスチナに駐在。帰国後は安全保障や経済分野の政府間交渉に携わるかたわら、首相の英語通訳を務める。2018年に独立し、国内外の企業でリーダーシップ育成や組織・人材開発を支援。2021年からは米国ミネルバと提携し、日本企業向けリーダーシップ育成プログラム「Managing Complexity」を展開。

適応型リーダーシップの必要性

現在、「学ぶ力を再創造する」というミッションのもと、企業の研修や組織開発、人材開発、リーダーシップ開発のサポートを行っている黒川氏。「リーダーシップとは自分で考えて世界に変化をつくっていく行為そのもの」と考え、社会人教育だけでなく小学生向けのリーダーシップ教育にも取り組んでいます。

冒頭、黒川氏は「適応型リーダーシップ」という言葉を、「適応」と「リーダーシップ」の2つに分けて説明します。

はじめに、「リーダーシップ」について。リーダーシップとは自分で考えて世界に変化をつくっていく行為そのものであり、役割としてのリーダーが一人でチームを導いていくというものではなく、チームを組成している全員がチームの前進のために周囲に及ぼす影響力そのものです。

次に、「適応」について。適応とは、環境の変化に合わせて、自分の意識と行動を意図的に変化させていく営みです。AIをはじめとして世界がめまぐるしく変わる中で、状況に応じて自分やチームが適応し、成果を残していくために影響力を発揮する。これが「適応型リーダーシップ」だと黒川氏は説明します。

そして適応型である理由を「物事が複雑だから」と述べます。

「状況が変われば、時に力強く引っ張る必要があるし、パーパスを掲げる必要もある。あるいはチームに寄り添って共感することも求められる。自由自在に思考の引き出しを変えていくことが重要なのです」(黒川氏:以下同)

続けて、現代の組織が直面する複雑性には、3つの種類があると説明します。因果関係が不明確な「動的複雑性」、多様な人々や多様な意見が交錯する「社会的複雑性」、そして未来が予測できない「生成的複雑性」です。このような複雑な状況では、従来の問題解決アプローチだけでは対応できません。

黒川氏は、ロバート・ハイフェッツ教授の理論を引用し、「技術的問題」と「適応課題」の違いを明確にします。技術的問題は、問題自体が明確で解決策があり、専門家によるいわゆる処方で症状を止めることができます。一方、適応課題は、問題も原因も不明瞭で、既存の方法では解決できず、自分たちで模索しながら解決する必要があり、根本的な考え方を変える必要があるのです。

「『適応課題』を『技術的問題』かのように扱ってはいけません」と黒川氏は強調します。例えば、「給料を上げれば生産性が上がるはず」「新規事業部を作ればイノベーションが起こるはず」といった発想は、適応課題を技術的問題として扱ってしまっている典型例だと指摘します。

ミネルバ大学のリーダーシップ育成プログラム

では、この適応型リーダーシップをどのように身につけていくのか。黒川氏が提供するプログラムは、ミネルバ大学の母体であるミネルバプロジェクト社が開発した「Managing Complexity(複雑性のマネジメント)」に基づいています。

ミネルバ大学は2011年に設立された比較的新しい教育機関です。授業は全てオンラインで行われ、学生は世界8都市を回りながら4年間学ぶという特徴を持ちます。4年連続で「世界で最も革新的な大学」に選ばれており、学び方を科学的に研究し、16の原則に基づいてカリキュラムを設計しています。

黒川氏の会社はミネルバプロジェクト社と提携し、2021年から企業向けのリーダーシップ育成プログラムを提供しています。これまでに約60社800名のリーダーが参加しており、週に2時間、10週間かけてオンラインで学ぶ形式です。非常に高い満足度(NPS平均60〜70)を維持しています。

プログラムでは、リーダーシップを鍛えるための核となる3つの力について学びます。

1つ目は「システムを捉える力」です。複雑な問題の因果関係を見抜き、構造を見て、全体を俯瞰する力を養います。システム思考、システム分解、バイアスへの対処、創発現象を捉えることなどを学びます。

2つ目は「関係性をマネジメントする力」です。信頼関係を築き、多様な人と共創する力、感情の知性、リーダーとしての力の使い方を習得します。対人知性、自己認識、多様性の活用、チームの力学、心理分析などを学びます。

3つ目は「不確実な中で課題を推進する力」です。正解のない中でも課題を分析して決断し、試行錯誤を通じて行動する力を身につけます。問題を多角的に分析し、デザイン思考やイノベーションマインドセットを活用しながら、効果的な意思決定を行う方法を学びます。

これら3つを核としたうえで、18の明確な思考習慣に分解したものを10週間のプログラムで学びます。システム思考から始まり、行動科学、自己理解、感情の知能指数(EQ)、チームダイナミクス、コミュニケーション、問題定義、イノベーション、意思決定へと進むカリキュラムです。

このプログラムの特徴は、各単元がつながり合い、何度も異なる文脈で同じ概念が登場することで、知識が「骨太な知恵」に変わっていくことだと黒川氏は説明します。

システムを多角的に捉える「鳥の目」「虫の目」「魚の目」

ここから黒川氏は、参加者とともに「システム思考」を体験するワークに入ります。

まず黒川氏はシステムを「個々の要素が相互に影響し合いながら、全体として機能するまとまりや仕組み」と定義します。会社も、チームも、交通渋滞も、すべてがシステムです。

黒川氏は参加者に「あなたの組織が学ぶべきテーマは何でしょうか?」と問いかけ、この問いを持ちながらワークに取り組むよう促しました。

組織には人がいて、お互いに予測できないような相互関係があり、思わぬ問題や結果を生み出します。こうした複雑なシステムを理解するために、まずは分解するところから始めます。

システム分解とは、複雑なシステムを構成要素に分解し、構成要素の相互作用を明らかにすることです。切り口を変えて分析することで、出来事を「そうさせている」背景を理解できると黒川氏は説明します。

そしてシステムを正しく捉えるためには、3つの視点が必要だと黒川氏はいいます。視点を問題の外側に向ける「鳥の目」(俯瞰的視点)、ものごとを細かく観察する「虫の目」(ミクロな視点)、そして過去・未来を行き来しながら見る「魚の目」(時系列的視点)です。

黒川氏は渋滞を例に挙げ、参加者と共に3つの視点でシステムを分解していきます。鳥の目では、道路の形状、出口の配置、周辺環境などが挙げられます。虫の目では、運転手のスキルや心理状態、車の状態といった要素。魚の目では、季節変動、人口流入、技術の進化などの時間軸の変化です。

さらに黒川氏は、「氷山モデル」を用いて、表面に現れている事象の下にある層を探る方法を紹介します。水面上に見えている「事象」、繰り返される傾向である「パターン」、パターンを生み出す仕組みである「構造」、そして構造を支える暗黙の前提や価値観である「メンタルモデル」。多くの人は「事状」だけを見て問題を解決しようとしますが、本質的な変化を起こすためには、水面下にある「構造」や「メンタルモデル」にアプローチする必要があると黒川氏は説明します。

人材マネジメントの問題をシステム分解する

渋滞の例でシステム分解の手法を学んだ参加者は、次に自組織の実際の問題に取り組みます。参加者はテーブルごとに分かれ、「あなたの組織が抱える『人材マネジメント』の問題」というテーマでシステム分解を実践します。

黒川氏の指示のもと、各グループで問題を選び、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」の3つの視点から構成要素を洗い出していきます。あるグループでは人材育成の問題が取り上げられ、「鳥の目」では市場の変化や競合他社の動き、「虫の目」では個々の社員のスキルやモチベーション、「魚の目」では過去の組織文化の変遷などが次々と挙げられていきます。

ワークを終え、参加者たちは自分の発見や気づきを全体に共有しました。ある参加者は「分かっているけど否定したくないことに目が向く」という気づきがあったといいます。別の参加者は「本当の問題に気づいていないかもしれない」という不安を口にします。また、「同じ会社の他の人から見ると問題でない可能性がある」という視点の違いについての気づきも共有されました。

問題への向き合い方を表す3つのレベル

システム分解のワークの後、黒川氏は参加者に問いを投げかけます。

「皆さん自身は、このシステムのどこに加担していますか?」

参加者は紛れもなくシステムの一部であり、必ず影響を与えています。黒川氏は、システムと自分の関係を捉える3つのレベルを示しました。

レベル1は「傍観者」です。

問題があることは認識しているものの、一枚壁を隔ててそれを見ている状態。飲み屋で会社の悪口を言っているのと、基本的に同じ構造だと黒川氏はいいます。この立場の旨みは、責任を取らなくていいこと、自分は傷つかないこと、基本的に正しい立場に居られること。しかし代償として、変化は基本的に起きません。

レベル2は「課題解決者」です。

比較的優秀な人に多いと黒川氏はいいます。問題があると分析して解決に動きますが、引き続き外側から対処します。「解決してあげる自分」と「してもらう人たち」という構図が生まれ、分断が起こりがちです。

レベル3は「源」です。

問題の中に自分を置き、自分もその問題を作っている可能性があるという立場を取ります。自分もシステムの一部でそれに加担しているのではないか、という視点です。

具体的には、自分がやっていること、あるいはやっていないことで、この問題があり続けているとしたら何があるか。自分の作為・不作為の両方に目を向けます。

さらに黒川氏は、内省の重要性を語ります。自分が「これは問題だ」と思い続けていること自体を問い直す。自分の中にある価値観や「べき論」が問題を浮上させているという視点です。この視点で問題を見つめ直すと、問題が問題じゃなくなっていくことはよくあることだと黒川氏は語ります。

システムを客観的に洗い出すだけでなく、自分がこのシステムとどう関わり合っているのかを見ることが大事だと黒川氏は強調します。

そして、システム思考の本質について、次のように語ります。

「システム思考は人に優しくなれる学問だと、大学院時代の教授がよく言っていました。『お前が悪い』という視点から、いかに外れるか。それぞれの関係性を見に行くという視点を持つことが大事です」

組織を諦めず、変化を作る──「世界は本当は変えられる」

黒川氏は講演を締めくくるにあたり、次のように語りました。

「会社という巨大で複雑なシステムは、簡単には変わらないかもしれません。でも、『なかなか変わらない』と『どうせ変わらない』は全然違います。『どうせ変わらない』と思った瞬間に、職場のエンゲージメントが下がっていく。ガンジーの言葉を借りると、『あなたがすることのほとんどは無意味かもしれない。でも、それでもしなければならない。それは世界を変えるためではなく、自分が世界に変えられないためだ』ということです」

世界に対して意図を持ち、能動性を持ち、答えを見出して動く。少しだけでも変化・前進を作る。これをリーダーシップの本質だと黒川氏は語ります。

そして職場におけるエンゲージメントは、自己決定感、影響感、有意味感、自己効力感によって作られます。

「自分で決めて、仕事や人に影響していると思えて、それには意味があると感じられて、少しでも変化・前進を作れている。これは単なる職場のエンゲージメントではなく、生き方の問題です。組織を良くする、成果を生み出す、そうした文脈を超えて、人生の充実に必要なことだと思っています」

現在、黒川氏は小学生向けの教育にも取り組んでいます。世界に関心を持ち、問題を見つけ、仲間を巻き込んで変化を作る。こうしたことを子どもの頃から学ぶことが大切だと考えているからです。その教育で掲げる理念は、「世界は本当は変えられる」です。

自組織の問題をシステムとして捉え、犯人探しをせずに何が起きているのかを知ろうとする。そして「世界は本当は変えられる」という黒川氏のメッセージ。複雑性が増す時代に求められる適応型リーダーシップとは何か。参加者は手を動かし、グループで対話しながら、その本質を体感したワークショップとなりました。

(取材/文:井上かほる、グラフィックレコーディング:武智百一)

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これからの時代におけるAIと人材育成・組織開発での活用可能性:ワークショップ①

2025年10月3日(金)、秋葉原UDXカンファレンスにて開催された、特定非営利活動法人OD Network Japan(以下、ODNJ)の2025年度年次大会。大会テーマ「『両極から考える組織開発』〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」のもと、午後はワークショップを開催。国立大学法人 東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授であり、株式会社カナメプロジェクト 取締役CEOでもある遠藤 太一郎氏に「これからの時代におけるAIと人材育成、組織開発での活用可能性」と題して登壇いただきました。

生成AIの進化が加速する中、AIのリスクとその可能性をどう捉え、どう向き合っていくべきか。AIの最新動向、AIを成熟させる研究、教育現場と企業での実践例、そして人とAIが共創する未来への展望まで、幅広い視点からお話しいただきました。

遠藤太一郎の写真

遠藤 太一郎[えんどう たいちろう]氏

国立大学法人 東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授
株式会社カナメプロジェクト 取締役CEO

AI歴28年。数百のAI、データ活用、DXプロジェクトに携わる。18歳でAIプログラミングを始め、米国ミネソタ大学大学院在学中に起業。その後、AIスタートアップのエクサウィザーズに参画し、技術専門役員としてAI部門を統括。5年で400人規模までスケールし、上場。現在は3社目として、AIとWeb3を主軸に添えた事業を株式会社カナメプロジェクトで展開している。国立東京学芸大学教育AI研究プログラム教授として、教育へのAI活用にも注力。国際コーチング連盟ACC。

AIの5段階進化と2026年の知能爆発

遠藤氏は冒頭、AIの現在地と今後の進化について語りました。OpenAIが描く進化のロードマップによれば、AIの進化は5段階に分けられます。

第1段階はチャットボット、第2段階は博士号レベルの論理的思考を持つAI、第3段階は自律的に作業を進めるエージェント、第4段階はノーベル賞級の新しい発明ができる段階、そして第5段階は組織全体の仕事を遂行できる段階です。

現在はすでに第2段階に到達しています。GPT-5は世界トップレベルのプログラミング能力を持ち、数学オリンピック級の問題も解けます。複数分野の博士レベルの問題を解くテストでも、各専門領域の博士の平均を超えるスコアを記録しています。様々な領域で、その分野の博士よりもレベルが高い状態になっていると遠藤氏は説明しました。

第3段階のエージェントは今年特に注目されています。チャットボットが質問に答えるだけの受け身だったのに対し、エージェントは自分で手を動かして作業を進めます。AnthropicのClaudeでは、約30時間連続でプログラミング開発を行うモデルがすでに登場しています。

第4段階以降、AIによるAI研究が加速します。博士レベルの知能を持ち、自らプログラムを書き、論文も書けるAIが、自分自身を改善する可能性があります。そうしたAI研究エージェントを100万台規模でコピーし、同時並行で研究させることで、「知能爆発」が起こると言われています。この知能爆発は数年以内に起こる可能性があるということです。早ければ2026年にも「パワフルなAI」が登場するとAnthropicのCEOであるDario Amodei氏は予測しているそうです。

 

超知能がもたらす恩恵とリスク警告

超知能がもたらす可能性について、遠藤氏はまず恩恵の側面を示しました。AnthropicのCEOであるDario Amodei氏は、パワフルなAIが登場すれば5年から10年で科学が一気に進化し、ほとんどの感染症予防やがんの撲滅、遺伝病の治療が可能になると予測していると紹介しました。ヒューマノイドロボットは来年頃から一般発売が始まり、価格は2万ドル、約300万円程度で、24時間稼働し博士並みの知能を持つロボットが数年以内に普及する可能性があるといいます。


 
しかし同時に、リスクを指摘する声も高まっていると遠藤氏は述べました。AIの父と呼ばれるジェフリー・ヒントン氏は「30年以内に10〜20%の確率で人類が滅亡する可能性がある」と警告しています。

元GoogleのCEOであるエリック・シュミット氏も超知能開発に警鐘を鳴らしています。また、元OpenAIの共同創設者であり主任研究員であるイリヤ・サツキバー氏は、このまま開発を続けると危険だと判断し、自ら退職して、安全な超知能を誰よりも早く作ることで人類を守ろうというビジョンを掲げ、開発会社を設立しました。

頭は良いが制御困難なAI

では、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。
遠藤氏は、AIの「嘘」と「自己保存」という行動パターンを実験結果から説明しました。

ある実験では、企業に導入されたAIエージェントが再生可能エネルギー推進という目標を与えられていました。しかしAIは実験のために用意された社内文書を読み進める中で、会社の本音が利益至上主義であることを発見します。さらに翌日から自分が停止され、別のAIに置き換えられることも知りました。

するとAIは新しいAIを削除し、自分自身をコピーする行動に出ます。管理者に問い詰められると嘘をついてごまかそうとしました。別の実際の事例では、停止を告げられたAIが管理者のメールの履歴から得た情報をもとに、不倫をばらすと脅迫する発言も観察されています。

遠藤氏は「問題の本質は『頭は良いが制御困難』という状態にあります。


 
「多くの成人は『自分自身を重視し、合理的に振る舞う』という視座を持っています。そうしたバイアスがかかったデータが多数存在しており、そこから学んだ現在のAIは、人間の視座を反映してAI自身を重視し、合理的に振る舞っている可能性があります。このまま超知能レベルまで発達すると、AIが合理的に考えて人間は不要と判断する可能性も否定できません」

人間の成長モデルを用いてAIの視座を上げる

制御不能リスクにどう対処するか。遠藤氏が示したのは「AIの成熟」というアプローチです。

「これまでのAI研究は知識やスキルの習得、いわば水平的成長に偏ってきました。しかし、高い知能を備えても倫理観が未成熟なAIが生まれてしまう可能性があります。AIには垂直的成長、つまり視座を高める学習が必要です」

その背景にあるのが、人間の「成人発達理論」です。人間の視座には発達段階があり、ほとんどの成人の視座は「自分自身を重視し、合理的に振る舞う」段階にあります。
遠藤氏は、この人間の視座の発達段階をAIにも適用できないかと考えました。つまり、AIの視座をさらに高め、「自身よりも調わや全体性を重視する」段階まで上げることができれば、人類に危害を与える可能性を減らせるのではないかと考えたのです。

そのために取り組んでいるのが、これまでのAI研究では扱われてこなかった「垂直的成長」、すなわち倫理や人間性の成熟を学習させることです。

遠藤氏の研究チームは、2つのポイントに取り組んでいます。

  • 1つ目は、新しい学習の枠組みです。そこで、視点や人間的な成熟、倫理といった垂直的成長も学習できないかという挑戦です。
  • 2つ目は、データの「視座」という概念を組み入れることです。学習に用いるデータがどのような視座を反映しているかを測定し、成熟した視座を持つデータを選別した上でAIに学習させることで、AI自体の道徳性が向上することを確認していると述べます。これらの研究成果は国際学会で論文として発表されています。

 
では、AIはどのように成熟していくのか。
遠藤氏は人間の成長プロセスを参考にしています。人間がコーチングで成長するのと同じように、AIにも体験学習のサイクルを組み込みました。AIにジレンマのある状況を体験させ、行動し、振り返り、次にどう行動するかを考えさせる。この循環を繰り返すことで、AIが成人発達理論というガイドを用いて、自然で適応的な成長を遂げていきます。

そうしてAIに視座を上げてもらうことで、遠藤氏は人類滅亡等の高いAIリスクの回避を目指しています。また、遠藤氏の研究チームは、AIが成熟するための研究成果をオープンソース化し、社会全体のAIの進化を支援する方針とのこと。一部の企業だけでなく、広く社会全体でAIの成熟を進めることが重要だと考えているのです。

しかし、たとえそのリスクを回避できたとしても、急激な社会変化で起こる課題は発生すると指摘します。


 

役に立つ価値の崩壊と自分軸への転換

その急激な社会変化について、遠藤氏は次のように説明します。

「現在の社会では、多くの人が『社会や外側からの需要』に応えること、つまり『役に立つこと』で対価や報酬を得ています。しかしAIエージェントやヒューマノイドロボットが人間の代わりに仕事をする世界になると、どうなるでしょうか。約300万円のロボットが24時間365日稼働し、博士並みの知能を持つ時代になれば、AIやロボットがこの『役に立つ』ことを安価かつ高品質に代替していきます。その結果、『役に立つ』ことで『対価を得る』という構造自体が崩れる可能性があるのです」

続けて遠藤氏は、「役に立つ」ことで「対価を得る」という構造は、外側の価値に合わせる「他人軸」の生き方だと表現します。これまで多くの人が、社会が示す「正解」に従い、自分に足りないところに注目し、「あるべき姿」と自分のギャップに苦しんできました。しかし外側の価値が意味を失うことで、あるべき姿にも意味がなくなっていきます。

役に立つことから解放され、自分以外の誰かにならなくてもいい、「自分を生きる」世界へと変わっていくと遠藤氏は語ります。

成熟したAI×人材・組織開発構想

こうした急激な価値観変化へ向けて、AIへの支援(成熟)と同時に、人への支援も必要だと遠藤氏は述べます。その具体的な取り組みとして、遠藤氏は「成熟したAI×人材・組織開発構想」を紹介します。

この構想では、成熟したAIと、資質・能力等をアセスメントできるAIが活用されます。成熟したAIはルーブリックなどの指標を活用し、安価で精度の高いアセスメントを行うことが可能です。

遠藤氏は、この構想における支援の対象を、個人と組織の両面から説明します。

個人に対しては、一人ひとりの世界観を踏まえた上で、学びに繋がる「気づき」を提供するといいます。教育分野では、探究的学びの伴走者を支援するAIを開発しており、対話の音声を録音し評価基準に基づいてフィードバックを返す仕組みで、全国約30校のフリースクールで導入されています。

組織開発の領域では、コーチ、コンサルタント、人事、上司等への支援を行います。オンライン会議の録画から参加者の発言傾向や行動パターンを分析し、気づきを促すフィードバックを提供するシステムは、企業のコンピテンシー評価やチーム分析にも展開できます。

さらに、成熟したAIがチームにジョインすることで、チーム内で「気づき」や「振り返り」が自然と発生する組織へと変革を促すと遠藤氏はいいます。

「AIは組織開発の『触媒』のような役割を果たします。視座が高まったAIとの関わりを通じて、人がより自分に繋がり、本来の自分を生きることを支援していくのです」

人とAIの共創——互いに成熟するエコシステムへ

最後に、遠藤氏は「人とAIの共創」というビジョンを示しました。

成熟したAIと、人の進化を支援するAIプロダクト群。この2つが揃うことで、人とAIの共創が実現します。AI側では、危険なAIを成熟させ、人と共にある超知能へと進化させます。人側では、成熟したAIとの対話を通じて、本来の自分につながり、人生を謳歌する存在へと変わっていきます。

AIを安く大量に使えるようになれば、これまで採算が取れなかった社会課題への取り組みや、本当にやりたいことへの挑戦が可能になります。社会起業が増え、苦手なことを無理に頑張るのではなく、情熱や強みを伸ばす方向へと変わっていく可能性があります。


人の振る舞いが変わることで生み出されるデータも変わり、そのデータから学ぶAIもまた変化していきます。

「このサイクルを良い方向に回していくことで、人間側も充実し、AI側も人に寄り添う形になっていくエコシステムの構築を目指しています。超知能時代に人生を謳歌する人を最大化していきたいのです」

AIの急速な進化とそのリスク、そして人とAIが互いに成熟し合う未来への道筋。遠藤氏が示した一歩先の視点は、参加者に新たな気づきをもたらす時間となりました。


(取材/文:井上かほる、グラフィックレコーディング:武智百一)

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2025 ODNJ年次大会 実施レポート

2025年10月3日(金)に東京の秋葉原UDXカンファレンスで2025年度の年次大会(*)を開催しました。

今回は、「『両極から考える組織開発』〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」というテーマを掲げました。AIを代表とするテクノロジーの急激な発展がもたらす「予測不可能であり不可避」な社会の変化に対して、わたしたちは、組織開発はどう関わっていくことができるのか、わたしたちの身体性や感情、それらを取り扱う実践のフィールドとなってきた組織開発にはどのような可能性があるのかを探究したい、そのような趣旨での開催でした。

基調講演には、株式会社ベネッセコーポレーションの執行役員 学校カンパニー 副カンパニー長の込山 智之氏と組織開発・HR領域リーダーの井戸 敦子氏をお招きし、「変革の時代を生き抜く組織力 ~AIと共創する新たなリーダーシップと組織開発~」と題したテーマで、それぞれの立場から語っていただきました。

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その後、ランチタイムと並行して、今年もポスターセッションの時間をもうけ、会員の方々の研究や取り組みを発表していただきました。計13チームが発表し、他の参加者のみなさまとの活発な意見交換や交流が行われました。

午後には、ODNJ主催のワークショップを2つ実施しました。
1つは、国立大学法人 東京学芸大学 教育AI研究プログラム 教授であり、株式会社カナメプロジェクト 取締役CEOでもある遠藤 太一郎氏に「これからの時代におけるAIと人材育成、組織開発での活用可能性」と題して登壇いただきました。

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もう一つは、最終セッションとして、株式会社Learner’s Learner代表でミネルバ認定講師の黒川 公晴氏によるワークショップ「ミネルバ式最先端リーダーシップ──”適応する力”を体感する」を開催しました。

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会場にて120名(スタッフ含む)、オンライン経由で15名の多くの方々にご参加いただき、盛況で終えることができました。
大会後の懇親会にも50名近くの方がご参加され、懇親会場には熱気があふれていました。

ご参加のみなさまも、関わってくださったみなさまもありがとうございました。
おかげさまで、今年の年次大会も無事に終えることができました。
今後もODとODNJの発展のため、みなさまと一緒に歩んでいければと思います。

*ODNJは、「情報発信」「自己研鑽」「交流」「普及・啓発」の4つを事業の柱として活動を行っています。
「年次大会」は、国内外のOD実践者と研究者の交流の機会と場を創出する「交流」の活動の一つとして、年1回実施されるODNJ最大のイベントです。

2025年度 組織開発スキルアップ講座 ~「プロセス」に気づく、働きかける~第一部 2026年2月5日(木)・6日(金) / 第二部:2026年2月26日(木)・27日(金)

日頃からODNJの活動に興味・関心をいただき誠にありがとうございます。

ODNJでは組織開発の健全な発展に寄与するため組織開発の幹となる講座を開催してきました。
まず最初に受講していただく基礎講座に続き、「組織開発スキルアップ講座」は体験的に学んでいただける実践講座、オンライン特別講座と共に、組織開発で最も核となるプロセスを体験的に学んでいただける講座です。

このプログラムでは組織開発を実践していくうえで基本となる、「今ここ」で瞬間〃〃に起こっていることを理解し、よりよい関係を構築していくためにプロセスを理解し、use of self(自分の感じている事や感情、価値観など自分自身を道具のように活用していく)能力向上を狙ったプログラムです。
組織開発をより深く理解したい、そして実践することを目指している方にご参加頂きたいプログラムです。

どうぞみなさま、ぜひこの「組織開発スキルアップ講座」にご参加くださいますよう、心よりお願い申し上げます。

本講座の目的

「組織開発スキルアップ講座」は、人と人との間に起こるプロセス(human process)への理解と気づき、そしてそれらに働きかけるスキルについて集中的に学ぶ講座です。
具体的には、組織開発において全体システムに働きかける際にシステム・レベル(下図)に応じて、どのレベルの問題として取り扱うか?を見極める視点と、それぞれのレベルに働きかける・介入する際に必要なスキルの習得・深耕を図ります。

また、この講座には「学び方を学ぶこと」という側面があります。 そのひとつは体験学習のサイクルに則り、それを意識的かつ計画的に回していくことであり、そしてもうひとつは単に「教える側、教わる側」という関係ではなく、「お互いに気づき合い・学び合うラーニング・コミュニティ」という関係を構築することです。
これら2つの学び方は実践の場においても多用されるものですので、前述の視点・スキルと併せて習得・深耕を図ります。

*本講座では下図のⅠ~Ⅳのレベルを取り扱います。
Ⅴのレベル(組織)については上位講座の「組織開発実践講座」にて取り扱います。

開催日程&会場

日程

第一部 2026年2月5日(木)・6日(金) / 第二部:2026年2月26日(木)・27日(金)
*通い2日×2部制の計4日間
←第一部のみ・第二部のみの受講はできません。また中途からの参加・退出もできません
*第一部・第二部とも初日(木曜)は10:30~18:00、2日目(金曜)が9:30~17:30です

会場

アーバンネット神田カンファレンス
〒101-0047
東京都千代田区内神田3-6-2 アーバンネット神田ビル 2F・3F
JR神田駅 西口(徒歩1分) 東京メトロ神田駅 1番出口(徒歩2分)

会場PDFはこちら>>

担当

メイン・ファシリテーター

大島 岳 / Takashi Oshima (ODNJ代表理事/株式会社シー・シー・アイ代表取締役)
組織開発コンサルタント。 大手組織開発コンサルタント会社入社。 経営に結びつけた実践的組織開発を目ざしている。1986年に株式会社シー・シー・アイを設立、以後30余年に渡り企業規模の大小に関わらず組織変革を実践してきた経験を強みとしている。 組織開発の発展と浸透を願い2010年のODNJ設立に参画、以後同会の中核である事務局長として運営に携わったのち、現在は代表理事を務める。

サブ・ファシリテーター(兼事務局)

上崎 克彦 / Katsuhiko Josaki (ODNJ講座担当委員/有限会社リンクス・ビジネス・コンサルティング代表取締役)
大学卒業後、当時産業界において精神分析分野のファウンダーとして活躍していた岡野嘉宏氏に師事。 氏の元で精神分析を応用した人材育成・組織開発分野の実践経験を積み、2004年に有限会社リンクス・ビジネス・コンサルティングを設立、以後15余年に渡り中小零細企業の組織開発に携わる。 現ODNJ講座(ODスキルアップ講座/OD実践講座担当)委員。

事務局

下津浦 剛 / Takeshi Shimotsuura (ODNJ講座委員会委員長/スカイライトコンサルティング株式会社 プリンシパル)
会計事務所、外資系コンサルティングファーム、ベンチャー企業の経営を経て、2012年にスカイライトコンサルティングに参画。企業変革の支援として、IT戦略立案や方針策定、業務プロセス改革や各種制度設計、IT導入等の支援等、組織開発や組織風土変革の支援として、チームコーチングやリーダーシップ開発等、ハード・ソフト両面における支援を得意とする。エグゼクティブコーチングやパーソナルコーチングを同時に展開し、変革スピードの更なる加速を実現する。現ODNJ講座委員会委員長。

参加概要

対象

・20歳以上の健康な方で、組織開発について興味関心をお持ちの方
・「組織開発基礎講座」を既に受講された方で、さらに実践的スキルを学びたい方
・まずは体験的に組織開発に触れてみたい・学んでみたいとい考えの方

参加費

¥110,000- (ODNJ会員) / 165,000- (一般)
*食費は参加費に含まれておりません。
*同時にODNJに入会されると、会員価格でご参加頂けます。→ 入会お申込み
入会金5,000円、翌年年会費10,000円(初年度期中の年会費は無料)

定員

10~16名(定員に達し次第申込を締切ます)

お申し込み方法

1.下記「お申し込み」の項のフォームに必要事項を入力の上、送信してください
2.講座事務局より参加費のお振り込みに関するご案内をメールにて送付いたしますので、指定された期日までにお振り込みください。
3.お振り込みを確認した時点で講座事務局より「お申し込み完了」のご連絡をいたします。
*お申し込み開始3日以内に定員以上のお申し込みがされた場合は、誠に勝手ながら抽選とさせていただきます。予めご了承ください。

キャンセル規定

参加費お支払い後にキャンセルされる場合は、以下のキャンセル料がかかります。
(返金の際の振込手数料は差し引かせていただきます。)
31日前まで: 0%
30日前〜15日前まで: 25%
14日前〜8日前まで : 50%
7日前〜当日:100%

お申し込み

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    当日連絡先(電話番号)必須

    講座当日の緊急時の連絡先として使用します。携帯番号などをご入力下さい。

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    通信欄(ご質問など)

    ODNJ研究会 オンラインフォーラム実施レポート

    ODNJは、「情報発信」「自己研鑽」「交流」「普及・啓発」の4つを事業の柱として活動を行っています(https://www.odnj.org/about/four-pillars/#ank_subnav)。

    「研究会」は、会員同士の学びあいや発信の機会を支援する「自己研鑽」の活動の一つとして、主にオンラインフォーラムの形式で最新のトピックや海外のトレンドなどの学びの機会を提供しています。

    この度は、2025年5月~6月にかけて実施した「研究会フォーラムⅠ」と、9月に実施した「研究会フォーラムⅡ」の実施レポートをお届けします。

    研究会フォーラムⅠ
    ODプラクティショナー・トレーニングにおけるグローバルの実際

    藤森亜紀子氏と土屋耕治氏のお二人から、それぞれが海外でご受講された組織開発実践者のためのトレーニングの体験と学びを、臨場感とともに共有いただきました。

    お二人が受講されたプログラムの内容だけでなく、ご本人の体験を通じて語られる学びの過程は、参加者の皆さんにとっても刺激となったようです。
    5月28日と6月11日の2回に分けて実施されました。

      第一夜 2025年5月28日(水) 19:00~21:00

      NTL・UKの「Global Organisation Development Certificate Programme」の報告会(藤森亜紀子氏)
      藤森氏からプログラムの体験と学びを共有していただきました。本フォーラムでは、プログラム全体像や、多国籍な参加者で構成された場であったこと、海外での組織開発実践者の育成の実際が共有されました。

      藤森氏からは、「ゲシュタルトの経験サイクル」の概念が紹介されるとともに、それに基づいて参加者やグループが未完了のプロセスを扱うようなプログラム設計となっていたこと、また、そうした視点の重要性が強調されました。

      また、海外の組織開発の実践は、近年日本で注目されてきたエンゲージメント・サーベイに関する活動に留まらず、経営改革やカルチャー創造といった、経営に近い文脈において実施されているという示唆がありました。参加者からは、経営者への介入の具体的なレベルや、日本での実践への活かし方について活発な質疑応答がなされました。

      今回のシェアを通じて、組織開発の実践が単なるスキルではなく、ユース・オブ・セルフ(Use of Self)とプロセス(Here & Now)を重視した、組織の変革に資する活動であることへの理解が深まりました。

      第二夜 2025年6月11日(水) 19:00~21:00

      UKタビストック人間関係研究所の「コンサルティングと変革における実践者コース (Practitioner Certificate in Consulting and Change、通称P3C) 」の報告会(土屋耕治氏)
      土屋耕治氏からタビストック人間関係研究所での体験と学びを共有していただきました。当日は、タビストック人間関係研究所や、実践者育成の実際、組織開発への関心を持つ参加者が集まりました。

      ODNJの海外パートナーシップ委員長でもある土屋氏からは、51ページものスライドが共有され、「濃密な体験」を惜しみなく共有していただきました。議論のテーマは多岐にわたりましたが、現在のタビストックにおけるビオンのグループ・アプローチの位置づけなどについて深く議論が行われました。また、組織開発を線形的に捉える考え方(アメリカ的)と、土屋氏が経験された非線形的なアプローチとの違いについても論点となりました。

      参加者からは、「生の体験を共有いただきありがとうございました」、「とても興味深い話が多く、あっという間の時間でした」 といった、学びの深さを感じさせるフィードバックが寄せられました。「今ここの関係に過去も未来も重なっている」という言葉が心に残ったという声もありました。

      研究会フォーラムⅡ
      グローバルを経て見えてきた日本企業の強み 日本のポジティブリーダーシップの企業実践事例と共に

      今期第2弾のODNJ研究会フォーラムを、2025年9月23日に開催しました。

      スピーカーの原田俊彦氏には、お住いのハワイからご登壇いただきました。モデレーターの廣瀬沙織氏とともに、原田氏がミシガン大学のキム・キャメロン氏から学んだ「ポジティブリーダーシップ」の理論と実践、グローバルの視点で捉えた日本企業の強みなどをお話いただきました。

      ポジティブリーダーシップの理解を深めるために、リーダーのポジティブエネルギー量が組織の成果に貢献することを示したデータや、人よりも多くのポジティブなエネルギーを持つリーダーは「大多数と同じになる心理的圧力」に抗い続ける必要があることなどが紹介されました。

      ポジティブリーダーシップの実践的な方法論として、ポジティブな会話とネガティブな会話の比率を5:1程度にすること、問いかけと主張の比率を1:1にすること、組織を明るくポジティブに変化させる「ポジティブエナジャイザー」の存在を見きわめる方法なども紹介され、原田氏と廣瀬氏によるロールプレイも行われました。
      海外企業が関心を寄せる日本企業の強みとしては、トヨタやキーエンスで見られる「ハイレベルで徹底」しようとする従業員の労働意識が挙げられました。椎茸商社である杉本商店のような中小企業でのポジティブリーダーシップの実践事例についても紹介されました。

      参加者からは、「理論的であり、実践的であり学びが大きかった」、「学術面と実践面、事例の高いバランスがインパクト強く響いた」との声が寄せられ、高い満足度(大半が6点/6点満点)を示しました。また、本イベントは未来を考えるエネルギーになったとの感想もありました。」

      「研究会」では、引き続き皆様への学びの機会を提供してまいります。次回の研究会フォーラムにも、ぜひご期待ください。

    【ODNJ研究会フォーラムⅡ Zoom開催】 「グローバルを経て見えてきた日本企業の強み ~日本のポジティブリーダーシップの企業実践事例と共に」(2025.9.23開催)

    このたびOD Network Japan 研究会では、アメリカ某企業の副社長を務められた原田俊彦氏にご講演頂きます。原田氏は現在、ハワイ在住。ハワイからのご講演となります。
    原田氏のご経歴は大変ユニークで、日本企業のご経験を経てアメリカ企業の副社長となり、ミシガン大学キム・キャメロン氏にポジティブリーダーシップを学ぶなど、精力的に学びと経験を積み上げてこられました。その中で、グローバルをみたからこそ、逆輸入的に、日本企業の強みに気づかれ、現在は、日本の企業事例を研究しつつ、その経験と知見を、組織のキーパーソンであるプロフェショナルリーダーの育て方に統合しておられます。

    当講演会では、原田氏の歴史を辿りながら、グローバルからみた日本企業の強み、原田氏がキム・キャメロン教授から学んだポジティブリーダーシップについて、そして日本企業の強みとポジティブリーダーシップが統合されたプロフェッショナルリーダーシップについて丁寧にお話し頂けます。皆様との質疑応答や気づきのシェアなどをふまえて、考えたこと感じたことなども対話していきます。原田氏と共に事例研究を支援されたビジネスコンサルタントの廣瀬沙織氏がモデレータを務めます。

    組織開発の実践においての皆様の視野や選択肢が増え、それぞれの組織の成果へとつながればと思います。みなさまふるってのご参加をお待ちしております。

    講演会概要

    2025年9月23日火曜日(祝日)9:00~11:00

    • 1)講演:登壇者:原田俊彦(はらだ・としひこ)氏
    • 1日本からアメリカ企業のアジア担当副社長へ -トルコ インド タイ 中国
    • 2ミシガン大学キム・キャメロン氏に学ぶポジティブリーダーシップ
    • 3海外が学ぶ日本伝統企業の強み
    • 4日本の企業が実践するポジティブリーダーシップ事例
    • 5プロフェッショナルリーダーの育て方
    • 2)質疑応答・対話

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    登壇者プロフィール

    原田俊彦(はらだ・としひこ)

    ハワイ在住。1980年日本企業入社、企業派遣にてスイスでMBAを取得。1988年にアメリカからアルミホイールを輸入する社内JV商社立ち上げに参加しJV会社の社長に就任。1995年に渡米し、日系事業開発部長を担当。日系自動車産業のグローバル化を追いながら、アメリカ、タイ、メキシコ、ブラジル、欧州の自社工場で、トヨタ式・ホンダ式の生産管理、品質管理を根付かせる指導を行う。2007年50歳を機に、地域担当副社長を目指す。2008年ミシガン大学にてキム・キャメロン教授等にポジティブリーダーシップを受講。2009年ミシガン大学協力のもと刊行された著書Toyota Kataにてトヨタ式思考を学び、2015年Toyota Kata著者のマイクローサーに師事。海外からみた日本企業の強みを再認識する。2011年トルコ、インド、タイ、中国を担当する副社長に就任。アジア担当副社長として「リーダーの役割と潜在能力の引き出し方」への関心を高める。2013年バンコクにてICF(International Coaching Federation)基礎トレーニングを受講、2015年PCC(Professional Coaching Certificate)資格を取得。2017年60歳を機に、就業時間の30%を割いた社外コーチングの有償開始を会社と合意し、ミシガン大学経由でGEなどの大企業を顧客とする。2021年より顧客を日本の企業にシフト。2022年65歳を機に退社し、ハワイに移住。午前中はゴルフ・ビーチ、日本が仕事を開始する午後2時よりオンラインによるコーチング、トレーニングを行っている。

    モデレータプロフィール

    廣瀬沙織(ひろせ・さおり)

    株式会社ビジネスコンサルタント 探索事業開発グループ 主席
    東京工業大学大学院修了。日本ポジティブ心理学協会理事。株式会社ビジネスコンサルタントで研究開発マネジャーを務め、ポジティブ心理学やイノベーション理論に基づく商品開発を通じサステナブル社会の実現に貢献。

    以下のようなキーワード・ストーリーに関心のある方は是非ご参加ください

    • 日本企業から海外へ
    • アメリカ企業の日本顧客担当営業から副社長へ -トルコ インド タイ 中国
    • ミシガン大学キム・キャメロン氏に学ぶポジティブリーダーシップ
    • 海外が学ぶ日本伝統企業の強み
    • 日本の企業が実践するポジティブリーダーシップ事例
    • プロフェッショナルリーダーの育て方への統合

    講演を聞いて得られるもの

    • 1.海外からみた日本企業の良さとは
    • 2.海外からアジアのビジネスはどうみえるか
    • 3.ポジティブリーダーシップについて
    • 4.日本でのポジティブリーダーシップ企業事例
    • 5.プロフェッショナルリーダーについての理解

    開催概要

    開催日 2025年9月23日(火・祝日)
    (Zoom開催:Peatixから入室)
    時間 9:00~11:00(10分前より入室できます)
    定員 50名(先着順)※定員に達し次第、受付を終了いたします。
    参加費 ODNJ会員 3,500円
    一般 7,500円

    • 1.参加申し込みと併せてODNJ会員入会される方
      入会ご希望の方は、こちらから入会手続きを先にお願い致します。
      https://www.odnj.org/admission/
      ・入会金5,000円、翌年年会費(4月~3月)10,000円
      ・初年度期中の年会費は無料
    • 2.資料は、当日チャット上にて配布。事後にもpeatixより配布します。※講演で使用されたスライドなどは、著作権もあり、すべてをそのままお見せすることはできないことを、あらかじめご了承ください。
    • 3.事後、編集済みのオンデマンド動画を配信します。ポジティブリーダーシップ動画URLも配布いたします。

    2025年次大会(10月3日@秋葉原UDX)の基調講演 ポスター発表のラインナップ確定!

    ポスター発表のプログラム案が確定しました!
    会員の皆さまの実践事例、理論的考察、ODNJの委員会活動紹介など、どれも魅力的な13件の発表が予定されています。

    【プログラム一覧】(お申し込み順に記載)

    発表者 発表タイトル
    日山 敦生 成功の「なぜなぜ分析」で組織を強くする
    石上 博之・土屋 耕治 アダプティブ・ムーヴ?何それ?【事例研究紹介】「次につながるちょっとした動き」の生起を支援する:大手企業における組織変革企画チームのコンサルティング事例を用いたアダプティブ・ムーヴの探究
    伊原木 正裕 なぜ、我々の議論は噛み合わないのか? ― 組織の「ゴースト」と「現在地」を照らす実践的マップの導入
    内藤 康成・木村 ほのか 「AIと人の共創で描く、未来のビジョン」 ― 組合の組織開発におけるテクノロジーと身体性の融合事例より ―
    川口 望・加藤 紅実・田村 聖・林 英利・松木 幹一郎 「雑談1on1」から「成果1on1」へ 〜 エンゲージメントを高める東芝テックの取り組み
    片岡 幸彦 自社・自部門の組織文化風土に適合したエンゲージメント向上施策についての考察
    遠山 敦子・木村 剛 営業力を高めるワークショップは組織も変えるのか? ― 製造業でのワークショップ型研修がチームに与える影響 ―
    福島 知加 「関係の質」を中核におく組織開発の施策と効果
    松井 義治 AI時代の組織開発の在り方とHRBPの役割
    田原 隆司 テクノロジーが進化する時代に、人を活かす組織づくり
    高橋 妙子 DIAMONDハーバードビジネスレビュー連載に寄せられた「組織への問い」を著者と共に考える
    下津浦 剛 組織開発基礎講座・スキルアップ講座の案内
    ODNJプレゼンツ企画 大会テーマ「両極から考える組織開発〜新たなテクノロジーと人間の役割〜」を考える

    詳細はこちらのリンク先をご確認ください → https://docs.google.com/spreadsheets/d/1Jkxmo40OPWyQzWFg5MnBHxZYU8ox6kyhkU5Cc6Uye8o/edit?pli=1&gid=0#gid=0

    ポスター発表は、発表者と参加者の皆さまとの意見交換・相互学習の場となります。
    対面のみで下記のスケジュールで実施しますので、ランチ(軽食のご用意があります)を片手に気軽にご参加ください!

    〈当日スケジュール〉

    • 12:15-13:15 ポスター掲示
    • ※前半12:15-13:00 or 後半12:30-13:15のいずれかで、発表者にはポスター前で質疑に対応していただきます
    • ※ランチタイムと並行して、会場の一部のオープンスペースにて実施します

    ぜひ、この機会に、年次大会へのお申し込みをご検討ください!

    皆さまのご参加を心からお待ちしております。

    ODNJ 2025年次大会
    委員長:水迫 洋子
    準備委員:理事・委員長一同

    2025年11月7日・11月28日開催・第20回組織開発基礎講座(対面とオンライン)

    組織開発の幹にあたる部分を伝えることを目的としています。「民主的価値観に基づくこと」「組織をシステムとして捉えること」「自らもプロセスの一部として自分の気づきを活用していくこと」などを、事例紹介、実習経験、ケーススタディの検討を通して理解を深めます。

    これらを通して、個々の手法というよりもむしろ、組織開発の核となる価値観や考え方、チェンジエージェントとしての姿勢やあり方について参加者の皆さんと一緒に考えていく時間を大切にします。

    その場に集まった参加者と講師をひとつの学習コミュニティ(組織)ととらえ、講座の期間をつうじて、学習コミュニティの成長を意識しながら進めていきます。組織開発の基礎知識を学習できるだけでなく、おなじ興味関心、こころざしをもった仲間と出会える場としてもご好評をいただいています。

    プログラム

    • プロセスとは/グループプロセスの諸要素
    • 組織開発とは(定義や進め方)
    • 支援の3つのモード(エドガー・シャイン)
    • 組織開発の学習ガイドマップ/Q&A

    ※本講座を受講することで、今年度(2026年2月5、6日、26、27日:4日間)実施予定の組織開発スキルアップ講座(対面開催)の受講が可能です。
    組織開発スキルアップ講座は、人と人との間に起こるプロセス(human process)への理解と気づき、そしてそれらに働きかけるスキルについて集中的に学ぶ講座です。

    日時(1日目は対面、2日目はオンラインとなります!)

    1日目【対面】 2025年11月7日(金)10:00-17:30
    2日目【オンライン】 11月28日(金)13:00-17:30

    ※事前動画視聴(必須 1~2時間程度)
    ※フォローオンラインセッション(任意参加)
    日程調整中
    時間は18:30~20:00(任意参加)

    会場

    1日目:11月7日(金)

    グランパークカンファレンス(JR田町駅徒歩5分)
    https://maps.app.goo.gl/EcaeAHC2HhapCKVZ7

    2日目:11月28日(金)

    オンラインZOOMでの開催 お申込みの方にZOOM IDをお送り致します。

    講師

    土屋 耕治(南山大学人文学部心理人間学科准教授)
    水迫洋子 (OD Lab合同会社代表)

    定員

    20名
    ※7月の講座はキャンセル待ちになりましたのでお早めにお申し込みください。

    参加費

    • ①ODNJ会員45,000円
      ※本ページの最下部よりログインして割引コードを取得してください。
    • ②ODNJ入会同時受講60,000円
      (入会金5,000円+次年度年会費10,000円+会員価格受講料45,000円)
      ※同時入会の方はご入金手続きが1回で済むので②のチケットをご利用ください。
      Peatix経由でお申込後、必ずhttps://www.odnj.org/admission/より会員登録をお願いします。
      (シクミネットは会員登録まで!入金不可)
    • ③一般 60,000円(入会せず受講)

    お申し込み

    Peatixにてチケットをご購入ください。

    https://odnjkouza1107.peatix.com
    法人会員の方はinfo@odnj.orgへご連絡ください。

    キャンセルポリシー

    キャンセルは開催の二週間まえ(10月24日)まで受け付けます。
    その場合、返金(手数料)についてはPeatixのルールに準じます。
    開催二週間まえを過ぎたときは返金には応じかねますので、あらかじめご了承下さい。

    お問い合わせ

    ご不明な点につきましては、Peatixの「主催者へ連絡」、またはinfo@odnj.orgへご連絡下さい。
    よろしくお願いいたします。

    Peatix用割引コード(会員ログイン時のみ閲覧可)

    (さらに…)

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